またか、と思いつつも、そこの障子が開くのを今か今かと待ち構えている。
数年前から八は、試験前になるといつも決まって俺の部屋へやって来る。
面識を持つようになった頃からだったか。初めは「付き合い」で仕方なくだったが、いつからかあいつのことを意識して待つようになっていた。
もしかしたらそういう感情を抱いているのかもしれないと何度思ったか知れないが、考えたところで答えは出てくれない。出す必要もないかもしれないけれど。
今日も例のごとく遅刻。しかしいつもよりだいぶ遅い。
どんなに遅れても来なかったことは一度もないのだが。
怒りを覚える自分と、不安に駆られる自分と。
俺の頭はここに居ないあいつの事でいっぱいだった。
なぜ勉強でもないのにこんなに頭を使わなくちゃいけない?
なぜこんなに心を掻き乱されなきゃいけない?
「早く来いってんだ…バカ八」
零れた八つ当たりは少し広い部屋にぽつんと放たれた。
不貞腐れて文机に伏せていると、次第に目蓋は重くなり、気付けばそれは俺の目を完全に塞いでしまっていた―
目を開けると、さっきまで脳内で噂をしていた奴がそこにいた。結局来たのか。
スースーと気持ちよさそうに寝息を立て、今にも涎を垂らしそうである。
「(…勉強見てくれって言った本人が寝てどうするよ。俺が寝てたって起こしたらいい話だろ、まったく…)」
呆れていると、ふと背中に少しばかりの重みがあることに気付いた。
振り返ると、自分の動作とともに形を崩し床へ傾れた布団が目に入る。
誰が掛けたかなんて、この目の前のバカに決まってる。
「……この世話焼きが」
毒づいてみるも、俺は頬が緩むのを必死に堪えていた。
なんでそうお前は俺を惑わすようなことばかりするんだ。勘違いしてしまうじゃないか。
ぼさぼさの髪の毛を手のひらで小さく掻き回し、息だけで「阿呆」と吐いた。
自分達を照らしていた燭台にそっと息を吹きかけ、布団の残りを横の奴にも被せる。
囲まれた空間を通じて体温が伝わる。
その所為だけではないだろうが、自分の頬が熱を帯びていくのを感じた。
「…結局、勉強できなかったな…」
目の前の奴を視界に入れたまま小さく笑い、静かに瞳を閉じた―
再び目を開けたとき、既に外はほのかな明るみを帯びていた。
(朝ぼらけ)
久々知は一人部屋ということで
すれちがい笹豆腐萌え
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