午後の演習後、遅めの掃除の時間。
い組の教室に伊作の姿が見えた。他の生徒に用があったらしい。
それを済ませ、窓際にいた私達を見つけると、皮肉めいた笑みを浮かべながらこちらへ寄ってきた。
「二人ともけっこう不真面目なんだねー」
「人が足りないと言われて来たのだが、声を掛けられた全員が集まってしまってな」
「役割から漏れてしまったというわけだ」
文次郎が乾いた雑巾をヒラヒラさせる。
自分の後ろで、手を動かしながらも談笑する同級生たちを見回し、少し笑う伊作。
「みんなで集まれることも少なくなってきたもんね」
斜め前方を見詰めながら、表情とはどこかつり合わない声色で呟く。
演習後の疲労は相当のものだ。より実戦に近い演習では体力も神経もかなり擦り減る。
わざわざ掃除をしに出ていくなど…と、夕飯や風呂の時間まで部屋で寛いでいるほうが断然良いと、私も少し前まではそう思っていた。
ふっ。文次郎が一つ笑いを零す。
「俺たちもまだまだ子どもだってことだ」
目を伏せ、片側の口角だけ上がり、笑顔を装う顔。それを横から捉える。
「…そうだね」
こちらは目も口も弧を描く。気付けば橙色の陽光を受け、色素の薄い伊作の髪はそれに反応するかのように色を持っている。
夕陽は山の稜線へ差し掛かろうとしていた。なんとも感慨深い。この景色を見る度に一日が終わっていく。明日が始まるための準備。しかし所詮は繰り返される営みの一部でしかない。
この瞬間に抗おうと云わんばかりに集った私達。その意を汲んだのか、今日の陽はいつもよりも長く我々を包み込んでいるようだった。
(暮れなずむ)
六年生はときどきこんなふうに無意識に集まっちゃうといい
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